資源循環の車窓から vol.8〜事業系紙ごみのリサイクルを加速させるために〜

事業系ごみの中でも、紙ごみはリサイクルの可能性が最も高い資源のひとつです。良質なオフィス用紙や段ボールは、古紙原料として高い需要を持ち、日本の紙リサイクル率は回収率81.6%(世界5位)、利用率66.8%(1970年から50年で倍に)と世界的にも高い水準にあります。しかしその一方で、「まだリサイクルされずに廃棄されている紙」が少なくない現実もあります。ここでは、紙ごみがもつ資源としての価値と、企業がその価値を最大化するためにとれる具体的なアクションについて深掘りしていきます。
1.紙ごみが秘める大きな可能性
紙は本来、原料である繊維(パルプ)を繰り返し使える素材です。金属やガラスと並ぶ「代表的リサイクル材」としての性格を持っています。特にオフィスから出るコピー用紙や帳票、会議資料、印刷・出版業界で出る裁ち落とし(損紙)などは、繊維が長く、白色度が高いことから、再生紙の原料として評価が高いです。段ボールもまた、国内の回収ルートが成熟しており、再生段ボールの需要は常に安定しています。
しかし現実には、こうした「良質な資源」が十分に活用されず、混在ごみとして排出されてしまうケースがあとを絶ちません。
紙コップや感熱紙と混ざってしまう
汚れや水濡れによって再生できなくなる
分別ルールが曖昧で「もったいない混ぜ方」が起きている
こうした理由から、本来リサイクルできる紙が再資源化の輪からこぼれ落ちているのです。資源循環の観点から見ても、紙のリサイクルは効果が大きいです。古紙利用はバージンパルプの使用を抑え、森林資源の保全につながるほか、製造工程に必要なエネルギーも削減できます。結果としてCO₂排出量の大幅な抑制にも寄与します。つまり、紙ごみを正しく分別することは、企業の環境負荷を「低コストで、すぐに」減らすことができる、もっとも効果的な取り組みのひとつと言えるのです。
2.先進的な企業の取り組みに学ぶ ― 製紙会社の挑戦
紙のリサイクルの可能性を語るうえで、紙関連企業の取り組みは大いに参考になります。彼らは自社製品の原料を安定的に確保するため、古紙の品質管理や新たなリサイクル技術の開発に積極的に投資しています。
たとえば、日本製紙株式会社は、新聞社などと連携して「クローズド・ループ」方式の古紙リサイクルを構築しています。読者宅から回収した新聞古紙や印刷工場の損紙を、自社の製紙工場で再生紙原料として用いるという仕組みです。また、食品・飲料用紙容器を回収し、紙糸に再生して布製品にまでアップサイクルする「choito®」という取り組みも実施しています。2019年より日本製紙本社オフィス内で使用された紙コップを回収し、足利工場において段ボール原紙の原料としてリサイクルする取組も、その一例です。
さらに、大王製紙株式会社は、印刷・出版から出る雑誌古紙や難処理古紙を対象に、自社の製造設備を改造・強化して紙用途への再利用を拡大しています。たとえば、従来は処理困難だった背糊やフィルム付き雑誌を、専用設備で自動除去し、板紙用途だけでなく一般紙用途への古紙利用にもつなげています。
また、王子マテリア株式会社は、段ボール原紙・白板紙の原料として、段ボール古紙・雑誌古紙・機密書類など幅広い古紙を活用しています。「難処理古紙専用溶解設備(ニーディングパルパー)」を用い、以前はリサイクルが難しいとみなされていた古紙も原料化しており、国内最大クラスの古紙利用企業として知られています。
これらの事例に共通するのは、以下が挙げられると考えます。
①古紙の「種類」や「質」に注目していること
②発生源(印刷・出版・オフィス)まで遡って分別・回収体制を整えていること
③回収から製紙原料化・再製品化までを一貫して設計していること
3.企業が今すぐ取り組める実践策
では、事業者・企業が紙ごみのリサイクル率を高めるために、どのようなことがあるのでしょうか?比較的簡単に始められる実践策を紹介します。
(1)分別ルールの明確化と徹底
まず重要なのは、紙の種類ごとに「何を資源として出せるか」を明確に示すことです。コピー用紙、帳票、段ボール、新聞・雑誌、封筒など、具体的な例を交えながら分類を一覧化し、共用スペースに掲示すると効果的です。
特に再生を妨げやすい感熱紙、油分が付着した紙、ラミネート加工紙などは禁忌品として明確に区別しておきましょう。
(2)発生源に応じた最適な管理方法
オフィスでは、「紙の発生源」を把握し、適切な回収ポイントを設置することが効果的です。たとえば、コピー機横に古紙専用ボックスを置く、会議資料の電子化を進める、シュレッダー紙を濡れない場所に保管するなど、ちょっとした工夫で分別の質は大きく上がります。
印刷業や出版業では、古紙を印刷種類・紙品質ごとに分別することが鍵を握ります。段ボールを多く使う流通業では、段ボールを折り畳んで回収する、保管場所を明確にするなど、物理的な整頓がリサイクル効率を高めます。
(3)回収業者との連携強化
回収業者にとっても紙の品質は重要な要素です。企業側が適切に分別すれば、リサイクル材として回収してもらえる可能性も高まります。回収業者とのコミュニケーションから、分別のポイントや改善案を共有することは、双方にとって大きなメリットとなります。
4.まとめ ― 紙ごみは最も取り組みやすく成果が出やすい資源
良質な紙は再生紙の原料として価値が高く、日本の紙産業を支える重要な循環資源です。事業系紙ごみの多くは、本来であれば再生可能であるにもかかわらず、分別不十分や情報不足によってリサイクルから外れてしまうケースが多く存在します。しかし、企業が少し意識と行動を変えるだけで、この状況は大きく改善します。
一回一回の紙ごみの量は、些細なものかもしれません。ですが、あなたのオフィスや事業所では1ヶ月どのくらい排出されるのでしょうか。まずは紙ゴミを分別することを通し、紙ごみの量を見える化することから初めていただけると嬉しく思います。
兵庫県西宮市での事業会社さんの古紙回収はSocialBridge株式会社へご相談ください。
<参考文献・出所一覧>
- 日本製紙グループ「環境・社会報告書」
- 新聞古紙リサイクルに関する取り組み(新聞社・回収業者とのクローズドループ事例)
(参考:環境省 JAPAN CIRCULAR ECONOMY 事例集) - 使用済み紙容器のアップサイクルプロジェクト「choito®」
日本製紙公式リリース・日本製紙連合会「紙の再生利用推進事例」 - 大王製紙「環境・CSR活動 レポート」
- 難処理古紙への取り組み(雑誌古紙・背糊付き古紙の再生設備など)
- 王子マテリア「サステナビリティ・古紙利用への取り組み」
- 公益財団法人 古紙再生促進センター 数字で見る古紙再生

