資源循環の車窓から vol.6〜資源循環を支えるヒト〜

これまでのコラムでは、日本の資源循環の歴史や、海外諸国における先進的な技術や取り組みについて紹介してきました。ここで忘れてはならないのが、こうした循環の現場を長年にわたって支えてきた現場を担う「人」です。

「第3回 SDGsに関する生活者調査」(2020年/全国10〜70代男女1400名対象)によると、10〜20代のうち約33%が「サーキュラーエコノミー」という言葉を認知しており、「脱プラ」や「ミニマリスト」に次ぐ高さです。若者の関心も急速に高まっている資源循環の世界。その世界を支えてきた人々を見てみると、社会からの注目をあびることは多くはないものの、日本のリサイクルを文字通り「動かしてきた」存在でした。

日本における資源循環に関わる労働人口は、時代とともにその構成と役割を変えながら増加してきました。以下の表は、1940年代から現在に至るまでの主な労働人口の推移を概観しています。

時期推定従事者数主な担い手の特徴備考
1940年代(戦時)数万人強制動員された朝鮮半島出身者・中国人など解体・金属徴発の担い手
1950〜60年代10〜15万人朝鮮半島出身者人、戦災孤児、都市の労働者焼け跡からの自発的な回収
1970〜80年代約20万人地域密着の家族経営、建設副業者など高度経済成長で廃材増加
1990年代約30万人日系南米人、零細から中堅への成長リサイクル法整備の始まり
2000〜2010年代約35〜40万人技能実習生、高齢者の就労も増加家電・食品リサイクル制度が整備
2020年代約42万人(うち約10万人が中間処理)多国籍化(ベトナム・中国・フィリピンなど)SDGsや脱炭素戦略の後押し
表1 資源循環産業に従事する労働者の推移(概数)
出所)総務省「就業構造基本調査」、厚労省「産業別雇用者数」、再生資源関連団体資料等より推計

このように、制度や技術の進化とともに、労働現場では担い手の多様化と分業化が進んできたことがわかります。さらに、リサイクル材の輸出量推移をみてみると、リサイクル材が「国内循環」から「国際循環」へと拡張してきた流れがより明確になります。

時期輸出対象国の主な変遷古紙輸出量(概数)鉄スクラップ輸出量(概数)
1950年代国内完結型循環
1970年代国内利用中心、一部台湾・韓国へ数千トン/年数十万トン/年
1990年代中国・韓国・台湾へ輸出開始約100万トン/年(1999年)約500万トン/年(1999年)
2000年代中国向け輸出が急増約400万トン/年(2005年)約800万トン/年(2008年)※過去最大
2010年代東南アジア(ベトナム・マレーシア等)へ分散約300〜400万トン/年約700〜800万トン/年
2020年代韓国・ベトナム・台湾が主輸出先約250〜300万トン/年(2023年)約504万トン/年(2023年)
表2 主要リサイクル材輸出量の推移(概数)
出所)世界銀行World Integrated Trade Solution、日本製紙連合会「紙・板紙の輸出入統計」、日本鉄リサイクル工業会(JISRA)「鉄スクラップの需給動向」等より推計

次項では、古紙・金属・廃食用油などを中心とする資源循環の歩みを、「人」を切り口に時系列で振り返ります。

ヒトとともに歩む資源循環の歴史

戦前〜戦中(〜1945年):「徴発される資源」としての金属

1930年代後半、日本は戦時体制へと突入し、国民生活の隅々にまで戦争協力が求められるようになりました。なかでも金属資源は貴重な軍需物資とされ、「金属供出運動」が全国で展開されます。寺院の鐘や街角の銅像、家庭の鍋などが徴発され、軍需工場へと送られました。

この時代、工場や解体現場では、動員された朝鮮半島出身者や中国人労働者が作業に従事していました。これらは自由意志によるものではなく、強制的な連行や徴用による労働であり、過酷な労働環境のもとで命を落とす人も少なくありませんでした。

戦後直後(1945〜1950年代):混乱の中で始まる生活のための再利用

敗戦直後、日本社会は物資不足にあえぎ、人々は焼け跡から金属や布切れを拾い集め、生活の糧としていました。このような状況のなか、都市部を中心に廃品回収が行われるようになります。当時、正式な制度や企業による管理はほとんどなく、いわば「インフォーマルなリサイクル」として、多様な人々により資源回収・リサイクルが担われていました。のちに廃品回収業を営むことになる人々にとって、この時期の活動が生業の始まりとなったのです。

高度経済成長期(1950〜1970年代):在日労働者とともに成長する回収業

1950年代以降、日本経済は高度成長期に突入します。その裏側で、建設現場や工場から出る廃材が大量に発生し、それを回収・再資源化する業者が台頭していきました。この頃には、朝鮮半島出身者の方々が都市部で廃品回収業を営むケースが多く見られるようになります。

中には、家族経営として事業を拡大し、2代目・3代目へと継承されていく企業もありました。当時の業界は差別や偏見と向き合いながらも、地域社会の循環を支える存在として徐々に地位を確立していきます。

1980〜1990年代:日系人の流入と新たな外国人労働力の登場

1980年代後半、いわゆるバブル経済期に入り、日本では深刻な人手不足が生じました。これを受け、南米からの日系ブラジル人やペルー人が工場労働者として来日し、一部は資源回収や解体現場でも働くようになります。

また、1993年には「外国人技能実習制度」が創設され、中国・ベトナム・フィリピンなどの若者が実習生として来日するようになります。制度上は製造業や建設業が中心でしたが、のちに資源回収や中間処理といった現場にも広がっていきました。

さらに、1990年代、中国・韓国・台湾などアジア諸国の製造業が成長する中で、日本国内に余剰となったリサイクル材は輸出品としての価値を帯び始めます。例えば、韓国と太いパイプを持つ在日韓国人・朝鮮人のネットワークが、日本国内の金属スクラップを韓国電炉メーカーへ輸出するルートを築き上げていきました。また、中国との貿易では、中国語を話せる日中バイリンガルの人材が橋渡し役となり、商社・物流・港湾関係者と連携しながらビジネスを広げていきました。

2000年代〜2010年代前半:制度化・産業化するリサイクル

2000年代に入ると、家電リサイクル法や食品リサイクル法など、さまざまなリサイクル関連法が施行され、資源循環が「制度化」されていきます。大手企業や自治体も関与するようになり、処理施設は大型化・高度化していきました。

その一方で、現場作業の多くは引き続き高齢者や外国人労働者に頼る形となっており、選別や分別といった作業において技能実習生が重要な役割を果たしています。

さらに、中国を始めとする世界各国でも、資源調達力への注目が高まり、古紙や廃プラスチックの日本から海外諸国への輸出が広がっていきました。

2010年代後半〜現在:国際情勢と国内処理への回帰

2018年、中国が「ナショナルソード政策」を実施し、海外からの資源ゴミの輸入を制限したことをきっかけに、日本国内でも「資源の国内循環」への動きが加速しました。

この頃から、韓国との金属スクラップ取引が注目を集めるようになります。日本からは良質な金属スクラップが韓国へ輸出され、韓国の電炉メーカー(例:東国製鋼など)がそれを活用。特に銅や鉄などの非鉄スクラップは韓国の製錬・精製技術と親和性が高く、長年にわたり相互補完的な関係が築かれてきました。現在でも、韓国や台湾は引き続き日本の高品質な鉄スクラップや古紙を重要な資源として輸入しており、選別・圧縮・品質証明の整備が重要視されています。

また、中国の「ナショナルソード政策」を発表したことにより、日本からの輸出先は一気にベトナム・マレーシア・インドネシアへと移行していきました。しかし、現地では環境負荷や劣悪な労働環境が問題となり、「持続可能な貿易」のあり方が問われ始めます。この頃から、日本では品質管理やトレーサビリティの重要性が増し、輸出業者には新たなスキルと責任が求められるようになりました。

一方、外国人労働者については、2019年に「特定技能制度」が導入され、より長期的・専門的な人材の受け入れが可能となりました。ただし、資源循環業界はまだこの制度の対象職種とはなっておらず、今後の制度拡充が期待されています。

おわりに:見えないところで支えてきた人々へ

日本の資源循環の仕組みは、これまで常に社会の周縁に生きる人々の手によって支えられてきました。在日外国人、技能実習生、高齢労働者──彼らの存在なしには、現代のリサイクル社会は成立しえなかったと言っても過言ではありません。さらに、資源循環の流れは、国内、グローバルそれぞれで生まれており、国籍や文化的バックグラウンドを含むより多様な人々が日本で生まれたリサイクル材の循環に携わっていると言えます。

こうした文脈を踏まえ、Social Bridgeでは現在、韓国人材専門の紹介・育成機関「KOREC(コレック)」の日本におけるパートナーとしても活動しています。KORECは、韓国の若者と日本企業との橋渡しを行う専門機関であり、私たちは特に日本国内でスクラップ貿易や資源循環事業に取り組む企業への韓国人材紹介を行っています。

韓国とは古くから金属スクラップを中心とした資源取引のパートナー関係にあり、現場を担う韓国人材と日本企業をつなぐことは、循環経済における国際的な連携の一助となると考えています。

「人を通じて循環をつくる」。 そんな思いで、これからも現場の声と、未来の社会課題に向き合っていきたいと考えています。

<参考文献・出所一覧>

■ 書籍・論文・報告書

1. 依光 正哲(2018)「日本における外国人労働者問題の歴史的推移と今後の課題」一橋大学大学院 社会学研究科 博士論文

2. 森 廣正・田村 哲樹(2002)「日本における外国人労働者問題の研究動向」『関西大学社会学部紀要』第33巻 第1号

3. 古庄 正(2013)『足尾銅山・朝鮮人強制連行と戦後処理』明石書店

4. 厚生労働省(2009)『外国人労働者の雇用の動向と受入れ状況について』労働政策研究・研修機構 調査報告書

5. 守屋 貴司(2018)「日本における外国人労働者の就労問題と改善策」福岡国際大学論集 第33巻 第1号

■ Web記事・調査資料(閲覧日:2025年6月)

6. 電通(2020)「第3回 SDGsに関する生活者調査」  

7. J-CASTニュース(2018年9月)「『静脈産業』を支える在日コリアン リサイクル事業の担い手たち」  

8. 連合総研(2015)『外国人労働者に関する基礎資料集』  

9. 世界銀行 World Integrated Trade Solution (WITS)

10. 日本製紙連合会『紙・板紙の輸出入統計』

11. 一般財団法人 古紙再生促進センター「古紙需給速報」

12. アーガスメディア「Japanese scrap exports surge in April」(2025年5月)

13. 日本鉄リサイクル工業会(JISRA)「鉄スクラップの需給動向」