資源循環の車窓から vol.3〜Social Bridgeによる神戸での取り組み:廃食油〜
Social Bridgeが取り組む資源循環
Social Bridge株式会社が運営するマツザワでは、1953年(昭和28年)神戸での創業以来、地元に根ざしながらおよそ70年間事業をおこなっています。神戸市指定の資源集団回収業者として実施している資源回収にはじまり、不用品回収、金属スクラップの高価買取、古物の買取(有価物処理)、産業廃棄物処理代行など、さまざまな取り組みから資源循環文化を創造しています。
資源循環の車窓から vol.3 〜廃食油〜
これまで、「古紙」「金属」とSocial Bridge・マツザワが取り組む資源循環の車窓をお届けしてきました。今回は、今後Social Bridge・マツザワが注力していく廃棄された食用油「廃食油」のリサイクルについてご紹介します。
世界の廃食油に関する動向
近年、環境問題やエネルギー資源の有効活用への関心が高まるなか、廃食用油(Used Cooking Oil, 以下UCO)のリサイクルが注目されています。

世界のUCO市場は年々拡大しています。2023年には市場規模が約66億ドルに達し、2032年には約139億6,000万ドルにまで成長すると予測されています。また、2022年の世界全体でのUCO供給量は約1億4,000万トンと推計されています。
UCOは主にバイオディーゼルや動物飼料、石けん、潤滑油などに再利用されており、循環型社会の構築に欠かせない資源のひとつといえるでしょう。
アメリカ
アメリカでは2022年に約3,200万トンのUCOが回収されました。同国は世界のUCO市場において約42%のシェアを持っており、その多くがバイオディーゼルの原料として利用されています。再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard, RFS)やカリフォルニア州の低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard, LCFS)などの政策が、UCOの収集と再利用を促進しています。
また、アメリカは、世界で最も発展したUCO収集ネットワークを有しており、レストランや食品加工業者からの効率的な回収を可能としています。以下は、アメリカ全土で商業施設からのUCOの回収とリサイクルを行う業界大手の企業「DAR PRO Solutions」による回収プロセスを示しています。DARでは、レストランや食品加工業者向けに、安全で効率的なUCO管理ソリューションを提供しています。
さらに、バイオ燃料の原料としての需要増加により、UCOの価格が上昇し、収集業者にとってのインセンティブが高まっています。
中国
中国は、UCOの再資源化が進む国のひとつです。2024年にはアメリカが輸入するUCOのうち、約60%が中国からのものでした。同国では、国内消費に加え欧米への輸出が盛んであり、UCOは貴重な貿易資源となっています。
米国や日本同様、レストランや食品加工業者などの商業施設からの廃食用油の回収は、整備が進んでいます。特に都市部では、地方自治体や民間企業が回収業者と連携し、定期的な回収サービスを提供しています。
例えば、Yum China(ケンタッキーやピザハットを運営する企業)は、四川省でUCOをバイオディーゼルに再生するパイロットプロジェクトを実施しました。
Yum ChinaによるUCOリサイクルプロセス
- 廃食用油の回収: ケンタッキーやピザハットの各店舗で使用済みの食用油を専用容器に収集。
- 回収業者による収集: 提携する廃油回収業者が定期的に各店舗を訪問し、廃食用油を回収。
- バイオディーゼルへの加工: 回収された廃食用油は、認定された施設でバイオディーゼルに再生。
- 再利用: 生成されたバイオディーゼルは、物流車両や発電機の燃料として再利用。
当プロジェクトを通し、2024年末までに約5,700トンの廃食用油がバイオディーゼルに転換されたと報告されています。
EU諸国
EU全体で年間約166万トンのUCOが回収され、その大部分は他国と同様商業用のものとなっています。EU諸国における自国内の使用済み食用油(UCO)の回収量が多い国のトップ4は、以下の通りであり、EU全体のUCO回収量50%を占めています。
- 1位:スペイン
- 年間UCO回収量:約420,000トン
- 国内に多くのUCO回収業者(例:Olio、Biocom Energía)が存在。
- 家庭・産業の両方からの回収が進んでいる。
- 地方自治体との連携で回収インフラが整備されている。
- 2位:ドイツ
- 年間UCO回収量:約390,000トン
- Saria Group など大規模企業が広域ネットワークで回収。
- 商業・産業からのUCO回収が中心だが、自治体レベルの家庭回収も拡大中。
- 3位:イタリア
- 年間UCO回収量:約240,000トン
- Sapi Green Oilなど、効果的な回収プロセスを構築する企業が主導。
- 家庭からの回収の割合がEU内でも比較的高い。
- 4位:フランス
- 年間UCO回収量:約190,000トン
- 回収は主にレストランや食品加工業者が中心。
- 家庭用回収はまだ課題があるが、最近では地方自治体が支援策を強化中。
例えば、Sapi Green Oilは、全国規模でのUCO回収ネットワークを構築し、商業施設や家庭からの廃油を効率的に収集・再生しています。まず、レストラン、ホテル、学校、自治体など、約50,000の顧客からUCOを回収します。それらの顧客へ、高密度ポリエチレン製の専用回収容器(容量25〜1000リットル)を提供し、安全かつ衛生的な廃油の保管を可能にしています。保管されたUCOは、イタリア全土に配置された倉庫と処理施設を活用し、効率的に回収と処理を実現しています。その後、回収したUCOは、バイオディーゼルや石けん、工業用製品などに再生され、循環型経済に貢献しています。

このように、UCOは上述の先進的な諸国を中心に、回収プロセスが整備され再資源化され、新たなエネルギーや製品へと生まれ変わっています。しかし、その大部分は商業用のUCOであり、家庭用UCOの回収は各国における課題となっています。日本においても、回収・リサイクルが進む商業用UCOに加え、家庭用UCOの効率的な回収システムの構築が必要とされています。
日本でのUCOリサイクルの現状
日本では、廃食用油の回収に関する明確な全国統一の法規制は存在しませんが、廃棄物処理法や資源循環促進法に基づき、自治体や事業者が自主的な取り組みを展開しています。特に、持続可能な航空燃料(SAF)の原料としての活用が期待されており、国や地方自治体はその回収促進に向けた支援や制度整備を進めています。以下では、日本における家庭用UCO回収に向けた取り組みを紹介します。
1. 東京都・千葉県でのENEOSによる家庭系廃食用油回収
ENEOSでは2023年から、セブン&アイ・ホールディングスと連携し、東京都内のイトーヨーカドー13店舗で家庭から出る廃食用油の回収を進めています。専用のリターナブルボトルを配布し、回収された油はSAFの原料として活用される予定です。2025年からは千葉県でも実証実験を開始し、スーパーに加え、コンビニ店舗や大規模マンション回収も実施されています。
2. 東京都「東京油で空飛ぶ 大作戦」
東京都は、コスモ石油や日揮ホールディングス、レボインターナショナルと連携し、家庭から出る廃食用油をSAFの原料として回収するキャンペーン「東京油で空飛ぶ 大作戦」を展開しています。2024年6月から8月にかけて、都内のガソリンスタンドに回収ボックスを設置し、ペットボトルなどに入れた使用済み食用油を市民が持ち込むことで、SAFの製造に活用する実証実験を実施しました。
3. 神戸市「食用油回収促進に係る持続可能な社会の構築に向けた連携協定」締結
神戸市は、日揮ホールディングス、レボインターナショナル、関西エアポート神戸などと連携し、家庭から出る廃食用油の回収を促進する協定を締結しました。2024年秋から市内の公共施設に専用ボックスを設置し、回収された油をSAFの原料として活用する実証を開始します。

Social Bridgeによる神戸での取り組み
コラム「バイオベース材料を用いた新たなサプライチェーン構築-2」でも触れたよう、商業用UCOのリサイクルは進む一方、家庭から発生するUCOのリサイクルは今まさに始まったフェーズであり、未だ約10万トンはほぼ焼却されています。Social Bridgeではこの家庭用UCOに着目し、神戸から回収・リサイクルの仕組み作りへ取り組み始めています。
- Social Bridgeによる回収フロー
①店舗:油を保管(揚げカスを取り除いた上で、一斗缶の8割まで油をためる)
②店舗: マツザワへ連絡
③マツザワ:回収
上述の通り、神戸市では2030年頃に神戸空港にて国際定期便の運用が開始することを見据え、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、「SAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)」の利用が有効なアプローチの一つと考えられています。このような神戸市における流れを汲み、特に未だ開発途上である家庭用UCOリサイクルに向けたバリューチェーン構築に向け、Social Bridgeでもその一端をこれからより一層取り組んでいきます。